TOTOエコリモコンとは?
TOTOといえばウォシュレットが有名ですが、電池不要タイプの「TOTOエコリモコン」という製品が販売されています。
これ自体は以前から売られているものですが、新品を入手する機会があったため、電池不要な構造を調べてみるために購入して分解してみました。
TOTOエコリモコンの外観をチェック
分解検証用に購入したTOTOエコリモコンです。
家庭用ウォシュレット等で見かけるリモコンとはデザインが全く違い、シルバーで大型のボタンを備えたものとなっています。
また電池不要タイプという事で、LEDランプによる表示や液晶画面などは存在しません。
ボタン部分を横から撮影してみました。
大型のボタンはクリック時のストークも大きくなっており、操作性という面ではユニバーサルデザインを意識したものといえるでしょう。
また大きなストロークは電池不要な構造の関係する部分でもありそうです。
今回購入したものは新品ということもあり、施工業者様へのお願いや、取り付けビスなども同梱されていました。
裏面には壁面取り付け用の金属ブラケットが付属しています。
この辺りはパブリック向け製品ということもあり、非常に大型かつ強度のあるデザインとなっています。
リモコン裏面の金属ブラケットを外してみました。
すると小さなシールで注意書きのようなものが貼り付けされていました。
「リモコンを開けない」と分解を拒否するようなメッセージが記載されていました。
良く見てみると、リモコンを開けないというのは電池が不要であるという事を伝えるためのようですね。
カバーを持ち上げると小型のスイッチが姿を現しました。
ビスを隠すためのものではなく、設定やリセット等に利用するものでしょうか。
外観のチェックはここまでになります。
エコリモコンを分解してみた
今回は分解するために購入したものなので、さっそく分解作業に取り掛かりましょう。
先ほどチェックしたように、リモコンの裏面を見てもビスなどは見当たりません。
そのため、まずはビス探しから始めましょう。
最初に見て一番怪しいと思ったのはこの部分です。ダミーカバーのようなものが取り付けされています。
少し硬かったですが、パカッと外れました。
そして探し求めていたビスも発見することができました!
先ほどの場所だけではまだ分解することは出来なかったので、今度は「止:STOP」ボタンの裏にビスを発見しました。
スイッチの裏面となるので、スイッチを取り外す際は慎重に作業しましょう。
ツメの部分を壊してしまうと再使用できなくなる恐れがあります。
そして最後のビスは、「水勢:PRESSURE:-」の裏面です。
合計4本のビスを外すと、フロントパネルと本体部が分離しました。
取り外したスイッチ部の裏側です。
ストロークが大きいスイッチとなっており、通常はこのように黒い部品がへこんでいます。
スイッチを押し込むと、このように黒部品が大きくせり出す形で動きを伝える構造になっています。
各スイッチの接地面には白いカムのような部品が装備されていました。
カムの働きはスイッチを押し込む力を横方向の動きに変えて、発電装置?に動力を伝える役割をしています。
また各カムにはバネが仕込まれているので、各スイッチの反力発生もこのバネ機構が担っています。
ちなみに左下にある白いラッチが発電装置のトリガーとなっています。
通常はこのようにラッチが見えています。
そしていずれかのスイッチを押し込むと、先ほどのカム機構によって横方向に変換された力で、発電装置のラッチを押し込む構造となっています。
横方向のスライドパーツを取り外してみました。
先ほどの発電装置ではどのボタンを押しても同じ動きとしてトリガーを押し込みます。
つまりどのボタンが押し込まれたのか、発電装置側では判別できないという事になります。
では、どのようにして押し込まれたボタンを判定しているのか?
その答えはカム部品に組み込まれた黒いマグネットで、おそらく裏面にホール素子のようなセンサー部品が装着されていると思われます。
カム部品を取り外してみました。
カム、バネ、マグネットと3つの部品で構成されており、普通のスイッチより組み立て工数がかかりそうな構造ですね。
ちなみに先ほどのダミーカバーの裏面にもカム部品が装備されていたので、そこにスイッチが装備された上位モデルも存在するものと思われます。
カム部品の軸受けです。
金属製のシャフトが整然と並んでおり、安価なマイクロスイッチとは違った美しさです。
先ほどのシャフトが生えた中間カバーを取り外しました。
ここでようやく基板とご対面です。
一般的なリモコンは裏蓋を外すと、すぐに基板が見える物がほとんどですが、このエコリモコンは基板にたどり着くまでの道のりが長いのが特徴ですね。
エコリモコンの基板をチェックしてみた
エコリモコンの基板部を撮影してみました。
構成としてはメイン基板、無線基板、発電装置といったところでしょうか。
メイン基板はビスで固定されているので、まずはビスを取り外します。
ここも一般的なブラスネジが使われているので、分解に特殊工具は不要です。
発電装置にはY字ビスが使われていますが、これは本体ケースとの固定には使われていませんでした。
このように両面テープで固定されているだけなので、マイナスドライバー等でこじって外しましょう。
メイン基板と周辺装置をまとめて取り外しました。
メイン基板は大型ですが、中央部のコンデンサ以外にはほとんど部品が見当たりませんね。
発電装置の回路を追ってみましょう。
発電装置から受け取った電力はダイオードと抵抗による整流回路を介して、中央部の充電用コンデンサにチャージされる構造です。
中央部の充電用コンデンサです。
容量違いのものが2個装備されていました。
16v47μFと16v33μFの2種類が並列に接続されています。
各スイッチのカム裏側に相当する場所にはホール素子が取り付けされていました。
発電した瞬間にどのスイッチが押し込まれているのか判断する仕掛けですね。
無線基板と表現しましたが、マイコンも搭載されており、どちらかといえばこちらがメイン基板に相当する機能をもっているようです。
搭載されるマイコンは「Renesas」の「R5F213M6QNNP」を搭載。
「IEEE802.15.4規格」の無線トランシーバーとR8C CPUコアを搭載したマイコンです。
低消費電力な仕様となっており、電圧は1.8Vから動作可能という事もあり、今回ような用途に最適なものだったのでしょう。
2.4Ghz帯の無線アンテナも装備されています。
IEEE802.15.4規格ですが、「Zigbee」と言われるもので日本ではあまり聞かないかもしれませんが、海外ではホームオートメーションやIoTデバイス等での利用が盛んです。
基板裏面には技適マークが印字されていました。
「R011-140032」となっており、ミツミ電機株式会社製という事が分かりますね。
エコリモコンの心臓部、発電装置をチェック!
ここまで時間がかかりましたが、今回の趣旨でもある発電装置をチェックしてみたいと思います。
まずは、発電装置から接続される回路部を撮影してみました。
最初にD1~D4のダイオードで整流されていることから、発電は交流パルスである可能性が考えられます。
基本的にはダイオードで整流してシャント抵抗?のような物を介して直接電源として利用しているようです。
まずは充電部の近くにプローブを接続して電圧等を計測してみましょう。
今回は手持ちのRIGOL製オシロスコープ、「DS1104Z Plus」を利用しました。
昨年の値上げ直前に購入したもので、実は今回の撮影が初使用です。
この状態でパチンッと発電装置のトリガーをクリックしてみました。
実際の波形データです。
電圧は最大で3.72V、その後はコンデンサにチャージされて3.56Vから徐々に低下していくような感じでした。
マイコンの絶対定格電圧は最大が3.8Vだったので、単純な構造ながらも絶妙な電圧を発生させていますね。
クリックの速度を変えても最大電圧に大きな違いはなかったので、発電装置の構造も気になるところ。
発電装置の側面にはミツミ電機のロゴが貼り付けされていました。
先ほどの技適マークといい、発電装置といい、全体がミツミ電機製とみて良いでしょう。
AE8221Aとう文字はロット番号のようで、この発電装置の型式等は不明でした。
では実際に発電装置を分解してみましょう。
ここはY字ビスが使われていますので、Y字ドライバーを準備する必要があります。
パカッとカバーが外れました。
この手の部品はバネが突然飛び出したりするので、分解の際は保護メガネの利用を推奨します。
発電装置の内部です。
反力を発生させる強力なバネとワンウェイホイール用のバネが組み込まれています。
発電用ラッチを少し押し込むと、右下のバネが縮み、ギアが少し回ります。
さらに押し込むと、ラッチは凹んだままですが、右下のバネは勢いよく元に戻りました。
この構造は白いワンウェイホイールの働きによって実現されています。
つまり、スイッチをゆっくり押し込んでも、早く押し込んでも発電には寄与しないという訳ですね。
右下のバネが反力で元に戻ろうとする勢いで発電しているとみるのが妥当ですね。
※バネ並みに超高速で押し込むと発電できそうですが(笑)
発電装置の裏ブタも外してみました。
どう見てもモーターのように見える部品が出てきました。
スイッチによる発電と言えば圧電素子のようなものを期待していましたが、いわゆる小型モーターが出てきたことは驚きです。
モーターのような物と表現しましたが、分解してみるとやはりモーター(発電機)でした。
TOTOエコリモコンを分解してみた感想
今回はたまたまTwitterで見かけたことからリモコンを購入して内部構造を研究してみる事になりました。
入手前は圧電素子だろうと考えていましたが、実際にスイッチを押してみると、何やらモーターを回しているようなクリック感・・・
実際に分解してみると、とてもよく考えられた構造だと感心しました。
エコリモコン全体としては稼働部品の多さもさることながら、パブリック向けとしての耐久性・信頼性の両立には様々な苦労があったように感じます。
またマイコンの起動速度がモノを言う、発電タイミングとホール素子の検出タイミングなど非常に興味深い構造を楽しむことができました。
電子回路だけではなく、メカトロニクス製品の分解はやはり面白いですね。
皆様も身近にある機器で内部構造が気になれば、まず分解。して楽しんでもらえればと思います。
コメント
[…] 電池不要のTOTOエコリモコンを分解してみた 投稿日 2023年1月28日 12:52:43 (最新情報) […]
[…] ●電池不要のTOTOエコリモコンを分解してみた (まず分解。) […]
予想外で面白かったです。ありがとうございました。
(メカの動きとかの動画ももしあれば見たくなりました)
他社ではこんなのもあるようですね。こちらは1ボタンだけです。
・電池を使わないワイヤレスチャイム
https://www.elpa.co.jp/product/cr05/elpa1322.html
[…] 電池不要のTOTOエコリモコンを分解してみた – まず分解。 […]
分解ありがとうございます。
発電機構が気になっていました。スプリングの方でモーターを回転させて安定させているのですね!
研究所勤務時代は、何でも買ってなんでも分解していましたが、個人ではなかなかそうは行きません。
大変勉強になりました。